「絶対安静」はかえってよくない

 

 次に、「安静にしていればよい」という点はどうでしょうか?
 これについても、すでにはっきりとした結論が出されています。

 

 前述のガイドラインには、

「ベッド上安静は、従来、腰痛に対する治療手段として広く行われていた。しかし現在では、その効果は低いとするエビデンスの高い報告が多い」

と記されています。

 

 確かに、急性腰痛の直後は、数日間の安静は必要ですが、どれだけ安静にしていればいいかは断定できないし、実際問題、働き盛りの人などはそれで良くなるかどうかはわからないのに、1週間も2週間も仕事を休んで寝ていられないでしょう。

 

多くの一流の専門家は、「2日以下の安静」を示唆しています。

 

 要するに、「ギックリ腰などの急性腰痛の時には絶対安静で、痛みが治まるまでは動かないのが一番よい」という従来の“常識”は間違いで、確たる根拠がなく、寝たきりにしてはいけないのです。

 

 ガイドラインでは、

「発症から72時間未満でも、ベッドで絶対安静にしているより痛みに応じて普段と同じように活動したほうが回復は早く、介護職など職業が原因の腰痛でも、休職期間は短いほうが再発予防に効果的」

としています。

 

つまり、ベッドに寝たままだと回復を遅らせるだけでなく、筋力低下や血行不良などによって身体機能が低下して合併症を誘発する怖れもあるため、かえって回復を長引かせるだけ。
絶対安静、安静臥床(あんせいがしょう)は避けて、むしろ積極的に動いた方が良い結果が得られる――これは過去1万例以上の症例を扱ってきた私自身の経験からも充分うなずける“常識”です。

 

 さらにこの点に関連して、「慢性的な腰痛でも運動は避けた方がいい」という古い考え方があります。

 

結論から言うとこれも間違いで、深刻に考え過ぎて安静にしているよりも、むしろ身体を動かした方が症状が軽くなる可能性が高く、「適度な運動療法を行うのが効果的」というのが新常識です。

 

同ガイドライン策定委員会委員長で、福島県立医科大学会津医療センターの白土修教授らが運動療法と薬物療法の比較試験を行ったところ、

「3か月以上続く慢性腰痛には運動療法が良かった」

と報告されています。

 

この比較試験では、痛みを和らげる効果は同程度だったのに対して、生活の質や機能回復面では運動療法群が明らかに有効だったことから、

「ストレッチや腹筋、背筋を毎日続けることは再発予防にも有効」
「運動療法は、他の保存的治療群と比べて痛みや機能障害の改善に効果がある。そして開始後1年以内では欠勤日数を軽減させ、職場復帰率を増やす効果がある」

と結論づけています。

 

この調査報告も、私の長年にわたる腰痛治療の症例と一致していて、適度な運動、そしてストレッチや筋トレなどの運動療法は、元の日常生活や職場への早期復帰、そして再発予防につながるのは確かです。