腰痛は重力が原因、ならば重力の負荷を取ってあげればいい!

 

ここで少し過去に遡って、私の体験談を述べておきます。

 

私の場合は、もともとカイロプラクティックを学び、その後、柔道整復師になりました。

 

卒後の研修として、リハビリテーションに大変理解の深い整形外科の医師のもとで、4年間、数多くの画像診断や症例を見てきました。

 

そして治療院を開業してからも、自分なりに研鑽を積む中でほとんどの症例に自信を持って対処することができました。

 

ところが、唯一、椎間板を損傷した急性腰痛については手技療法では歯が立たず、辛い痛みを我慢して松葉杖やご家族に脇を抱えられてやっとの思いで来院していただいても、ベッドに横になってもらうことさえできない方に対しては積極的な治療が行えず、湿布やコルセットをして帰宅していただくしかありませんでした。

 

「今はどうしてあげることもできない。何とか痛みさえ軽減できれば手技療法や運動療法が施せて、手術をしなくてもすむかもしれないのに……」

 

プロの治療家として悔しい思いを胸に秘め、頭の中でずっとそのことばかり考え続けていたところ、ある日、「そもそも腰痛は重力が原因。

 

ならば、重力による負荷を減らしてあげればいいのでは!?」とふと思いつきました。

 

この発想が、独自のニュートンメソッド(後述)を生むきっかけになったわけですが、重力と腰痛の関係を簡単に説明しておくとこういうことです。

 

 まず、腰痛の根本的な要因の一つは、人類が二足歩行を始めたことによって、上半身の体重が腰椎に集中して負荷を与えることに起因していると考えられています。

 

脳が発達して、手も自由に使えるようになったことで行動範囲が広がったように、背骨も起立走行に適するようにS字カーブを呈することで一気に活動領域が広がったわけですが、起立歩行によって重力が増した分、その重力に抗するために変形した身体の構造が前述した背骨のS字カーブで、これを生理的脊柱彎曲と呼びます。

 

他の病気や精神的なストレスなどの要因は別として、基本的にこの背骨のアーチが正常に保たれていれば重心のバランスが取れて腰椎に対する重力の負荷が軽減されるので、よほど無理をしたりケガや事故などにあわない限り、腰痛に悩まされることはないはずです。

 

ところが、現代人は、前かがみの姿勢や猫背などによって背骨や骨盤が歪んでしまったり、運動不足などで腹筋や背筋の深部の筋肉(コアマッスル)や体幹部、ハムストリング(裏ももの筋肉群)などが弱くなっていて、その結果、重心のバランスが悪くなっている人がとても多いのです。

 

つまり、上半身の重さを支える要となる腰椎や椎間板が変形し、足腰の筋肉も弱っている状態。これを家に例えると、土台となる基礎部分や大黒柱が弱ってグラグラした状態のまま、その上に重い建物が乗っかっているようなものです。

 

このような背景もあって、日本の医療現場では、「腰痛患者の9割は姿勢による筋肉の疲れが原因である」と考えられているくらいです。

 

介護者に腰痛が多いのも、腰椎への過剰な負荷が原因の一つだと見られていますが、他の多くの職場でも腰痛が職業病の一つとして認知されているのは、精神的ストレスに加えて、腰椎への過剰な負荷や筋肉の脆弱さ(疲労)と密接に関係していることは明らかでしょう。

 

腰痛の根本的な要因は、重力による腰への負荷であり、見えない物理的なストレス。

 

では、重力のない宇宙空間では人は腰痛にはならないのか?

 

実は、答えは「ノー」です。宇宙飛行士でも腰痛になります。

 

無重力空間で生活をしていると、骨格筋の筋力が著しく低下します。例えば、1〜2週間の宇宙飛行によって、腰部の伸展筋力が23%、屈曲筋力が10%、膝関節の伸展筋力が12%、屈曲筋力が6%、足関節背屈筋力が8%、宇宙飛行前より減少したという調査報告があります。

 

このことから、宇宙飛行士が腰痛に悩まされるのは、無重力による筋肉の急激な低下と骨格の不整配列(椎間板の不正列)、血流不全などが原因ではないかと考えられています。

 

そこで、宇宙飛行士は腰痛予防のためにどうしているかといえば、宇宙船内で腕立て伏せやラジオ体操などの運動療法を行っているそうです。

 

おそらく、体幹部の筋肉、抗重力筋と呼ばれる脊柱起立筋や大腿四頭筋、下腿三頭筋といった筋群を鍛えることによって、筋肉が緩み過ぎないように適正な緊張(トーヌス)を整え、筋力低下や血流不全を予防していると思われます。

 

前述したように、この筋肉の適正な緊張を保持する力、筋トーヌスを整えることが腰痛予防につながります。

 

筋トーヌスが正常なら、筋肉の緊張と収縮が適切に行われ、関節の可動域も制限されることなく正常に働くからです。

 

ようは、筋緊張が強過ぎても弱過ぎても腰痛の要因になるということです。

 

したがって、腰痛予防の基本は、正しい姿勢の維持や骨格矯正によって背骨のS字カーブを保持することと、筋トーヌスを正常に保つために体幹部を支える筋トレやストレッチを行うことで、その具体的な方法については後ほど詳しくお伝えしたいと思います。