腰痛には「重力除去」が効果的

 

重度のギックリ腰や難治性と言われる腰椎椎間板ヘルニアの患者さんに対して、早期の運動療法を行いたくても痛みが強くて積極的な治療ができず、治療期間が長引いてしまって、結果的に患者さんのQOL(生活の質)も低下させてしまう……。

 

「何とか患者さんに負担をかけない、痛くない治療はできないものか」

 

かつての私のように、そんなふうに思っている治療家・施術者も少なくないと思います。

 

一方、患者側からすると、「効果はあるようだけどすごく痛いらしい」という荒療治的な治療を受けようとしていたり、「これで本当に良くなるのだろうか?」と疑問を持ったまま定期的に牽引療法を続けている人もいるかもしれません。

 

痛みを我慢させて行う荒療治は、一見すごそうに見えても、もし骨や関節に異常があった場合、逆に腰痛が悪化して取り返しのつかないことになるケースがあり、下手をすると車椅子生活になる場合もあるのでくれぐれも注意をしなくてはいけません。

 

レントゲンを撮れる医師は別として、視診や触診によって骨や関節の異常を推察する技術は、単に「ボキボキ・バキバキ」と音を鳴らす荒療治とはまったく別ものです。

 

腰痛に対して最も効果的な施術を行ううえで大事なのは、第一次スクリーニングの際、腰痛の生体力学(バイオメカニクス)に基づいた鑑別診断がしっかりとできるかどうかにかかっています。

 

肝心なことは、多角的なアプローチによる正確な原因の特定、不具合の見極めです。

 

この鑑別診断、ただやみくもにマッサージをしたり、素人目には一見効果がありそうに見える機械を使ってみたり、効果がはっきりしていない(エビデンスがない)保存療法に頼ってしまうことになりかねません。
その意味においても、ただ牽引だけを続けていても根治するのは難しく、効果的な手技療法や運動療法を施さなければ腰痛の根本的な改善や機能回復は望めないでしょう。

 

腰痛治療でよく用いられる一般的な牽引機は、皮膚や筋肉までしかテンション(張力)がかからず、腰痛のバイオメカニクスの観点からすると、「関節を牽引しなければ治療にならない」からです。少なくとも、私はこの考え方に基づいて、牽引なしで治療成績を着実に上げてきました。

 

長年の臨床経験やエビデンスからしても、数ある手技の中でも脊椎マニピュレーションが腰痛治療に対して有効なのは明らかで、それと運動療法を併用することによってより高いレベルでの治療効果が発揮されるのです。

 

そこで問題は、「できるだけ早期に運動療法を施すために、いかに痛みを軽減できるか」です。