温熱は一時的、牽引療法も有効性は低い

 

では次に、保存療法の一つとして整形外科や接骨院などでよく行われる、「温熱療法」「牽引療法」の効果のほどについても確認しておきましょう。

 

まず、患部を温める温熱療法について、日本のガイドラインでは

「急性に対しては短期的には有効。慢性腰痛に対しては質の高いエビデンスは存在しない」

と結論づけています。

 

また、米国の腰痛治療ガイドラインでは、温熱療法に関しては牽引療法と同じく否定的な見解を示しています。

 

つまり、温熱療法は、急性腰痛には一時的に効果があっても、慢性腰痛には効くかはどうかははっきりしていないのです。

 

牽引療法は、腰部の筋肉や靭帯への伸展収縮によるマッサージや刺激効果を期待して、専用の機器を用いて患者の腰部や下肢を強制的に牽引する方法です。

 

しかし、前述の『腰痛診療ガイドライン』の中では、

「腰痛患者全般に対する牽引療法が有効である可能性は低い」

とはっきり書かれていて、日本整形外科学会の『腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン』(日本脊椎脊髄病学会監修)でも、

 

「牽引療法がヘルニアによる腰痛、下肢痛の改善に有効であるかは明らかではなく、保存療法の一貫として牽引療法選択の是非を検討する必要がある」

と記されています。

 

また、菊池臣一氏も、著書「続・腰痛をめぐる常識のウソ」の中で下記のように記しています。

 

「腰痛の治療に関与している専門家で、骨盤牽引が治療手段として真に有効であると思っている人は、あまりいないのではないでしょうか」「文献で見る限り、急性・慢性に限らず骨盤牽引が腰痛患者に効果的であるという根拠は今のところ示されていません」

 

要するに、効果的な腰椎牽引についてのエビデンスはなく、ストレッチとは原理も作用も違います。

 

「何となく効きそう」「本人がやりたければどうぞ」というのが実際のところで、意識がはっきりした状態で牽引されるとかえって筋肉が緊張したり、過度で急激な牽引はかえって組織損傷の原因になることもあるので要注意、というのが新常識です。