手術は保存療法と比べて治療成績がいいわけではない
次に、手術と保存療法の治療成績の違いについて見てみましょう。
「運動麻痺や知覚障害の回復に関して、保存療法と比べて手術の方が治療成績がいい」
「進行性の神経麻痺がある場合、手術しか方法がない」
という見方があります。
しかし、この点に関しても、日本の脊椎・脊髄外科の臨床・研究ではトップクラスの脊椎外科医の菊池臣一氏(福島県立医科大学理事長兼学長)が『続・腰痛治療をめぐる常識の嘘』(金原出版)の中で次のように述べています。
「脊椎外科医は高度な麻痺を呈している患者さんをみた時には手術を勧めます。著者も手術を勧めています。では、手術による神経機能の改善は期待できるのかというと、その治療成績は決して良くありません。このことに関してはすべに多数の文献で明らかにされています。―中略―筆者が調べた限りでは、手術が運動麻痺や知覚障害に対して改善効果が保存療法より優れていることを証明した文献はありません。―中略―高度な麻痺例に対して、「手術しかない」という説明だけでは厳密には不十分といわざるを得ません」
つまり、高度麻痺に対して手術は適応だけれど、予後は必ずしも良くなく、手術が手術以外の保存療法よりも優れていると言える確たる証拠はない、ということです。
また、保存療法の一つで、脊椎マニピュレーションと呼ばれる手技療法がありますが、かつては「脊椎マニピュレーションはインチキ治療である」と断じる医療関係者もいました。
脊椎マニピュレーションは、主にカイロプラクティックという手技療法の中で用いられる手技の一つで、「神経根症状のない急性腰痛の患者に対しては、発症1か月以内に用いれば有効性が高い」ことがわかっています。
カイロプラクティックとは、背骨を中心に骨格の歪みを手技(アジャストメント)で調整することにより、神経の働きを高めて健康を回復させる米国発の手技療法です。
米国内では全腰痛患者の40%がカイロプラクターの治療を受けていて、欧米の公的なガイドラインにおいて脊椎マニピュレーションが急性腰痛に対する治療手段として奨励されていることもあって、日本でも各方面の治療関係者から注目されるようになりました。
最近では、脊椎の専門医とカイロプラクターからなる合同委員会とカイロプラクター単独の委員会で、脊椎マニピュレーションの適応が約7割の症例で一致したという報告があり、私も長年カイロプラクターとして施術を行ってきた経験から、その有効性はよく実感しています(但し、カイロプラクティックだけでも限界があります)。
このように、「手術以外の保存療法の中にも治療効果が高いものがある」ということを知っていれば、決して諦めることはなく、希望が持てるのではないでしょうか。